「朝のリレー」設問集
 
〈文章の種類〉→〈詩〉
〈詩の種類〉→〈口語自由詩〉
             〈口語〉(いまのことば。)
             〈文語〉(むかしのことば。)
                 野ゆき山ゆき海辺うみべゆき         7音+5音
                 真ひるの丘べ花を
                 つぶらひとみの君ゆ
                 うれは青し空よりも。 佐藤春夫「少年の日」
             〈定型詩〉(音〈おん〉数がきまっている。7音と5音だけを使う。)
                  例 「少年の日」参照。
             〈自由詩〉(音数がきまっていない。その作品にしかないリズムで書いてある。)
             〈散文詩〉(小説みたいにあまり改行しないで書く詩。)
〈連〉(詩の段落のこと。)
   〈行空き〉でわかれる。〈第一連〉、〈第二連〉。
 
詩を朗読しよう!
詩は、朗読が大切です。声に出して読んだときの感じを味わってみましょう!
朗読するときの注意
    姿勢を大事に。背筋を伸ばす。
    本を高く持つ。
    喉が苦しくないように。
    お腹から声を出して、大きな声で。
    ゆっくりと読むのがコツ。
 
@ グループに分かれて、お互いに朗読を披露する。
  グループの中で、一番上手な人を代表に選ぶ。
 
A 代表者の発表を聴く。
  代表者は、意識したところを、一つ以上、発表する。
   例えば?
   ☆ カムチャツカとメキシコ、ニューヨークとローマをセット、という感じで。
   ☆ 見ているとき、バスを待っている、寝がえりをうつとき、朝陽にウインクする
     を少しゆっくりと読む。一人一人の動きを強調したい。
   ☆ 「いつもどこかで朝がはじまっている」が際立つようにしたい。ゆっくりと、少し高い調子で読みたい。
   ☆ 「ぼくらは朝をリレーするのだ」「地球を守る」「それはあなたの送った朝を/誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ」をしっかりと読みたい。ゆっくりと、少し高い調子で。
 
などなど…
 
B どこが良かったか、を見つけてノートに書く。
  何人かに発表してもらう。
 
C 第一連の構成や内容について、気がつくことを述べなさい。
 
  1 カムチャツカ メキシコ ニューヨーク ローマ 
 
    カムチャツカが夜になると、メキシコは朝を迎える。
    ニューヨークが夜になると、ローマは朝になる。
    http://www.kidsmc.com/penpal/clock01j.htm
    地図参照
    カムチャツカにカーソルが合うのは、ウェリントンです。
    メキシコに合うのはデンバーです。時差は19時間差あるので、カムチャツカが夜中の2時に、メキシコは朝の7時です。
    ニューヨークとローマではちょうど6時間の時差があります。だからニューヨークが夜中の12時になる頃、ローマでは朝の6時です。
 
    《カタカナが文頭にある》(文がカタカナで始まっている。)
    《世界の地名が文頭にある》(世界の地名で始まっている。)
 
     カムチャツカの〜
     メキシコの〜
     ニューヨークの〜
     ローマの〜
     この詩は世界を舞台にしていることがわかる。
 
  2 カムチャツカとメキシコ  ニューヨークとローマ は対を成している。二つで、セットになっている。
       若者と娘、少女と少年が対照的に並んでいる。
       若者と夢 ←→ 娘 朝もや
        (夜)     (朝)
       少女と寝返り←→少年と朝陽へのウインク
 
 
〈対句〈ついく〉〉(反対だったり、対応することばを並べること。)

カムチャツカの若者が
きりんの夢を見ているとき
対句
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている


    ↑1〜4行目までと5〜8行目
    ↓までもやはり対句になっている、と言える。


ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
対句
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする



  3 居心地の良い夜 → キリンの夢 ほほえみながら寝返り
    静かな朝 → バスを待っている娘 朝陽にウインク
    全体が平和なイメージに満ちている。
 
  柱頭 柱の一番上の部分
  http://members.aol.com/Mk65km/homepage/map/parthenon.htm パルテノン神殿の柱頭の写真
  4 若者、娘、少女、少年と、若い人ばかりが出てきている。→H参照
 
D 第一連と第二連とは、内容的に、どんな風に違いますか?
    第一連は、具体的な例が書いてある。
    第二連は、第一連の説明のような内容になっている。
 
E 第二連の表現上の特徴は?
   〈倒置法〉(ことばの順序がふつうとちがうこと。)
      ぼくらは朝をリレーするのだ
      経度から経度へと
 
  〈比喩〈ひゆ〉〉(たとえ)
      ぼくらは朝をリレーするのだ
          国から国へと朝が移っていくことを「リレー」にたとえている。
      交代で地球を守る
      目覚時計のベルが鳴ってる
 
  第二連の1行目と最終行では「〜のだ」という断定口調が使われていて、やや強い印象を与える。
  特に1行目は、比喩法も倒置法も使われていて、全体の中で印象が際だっている。相当大事な1行だ、と思っていい。
  表題にもなっているしね!
 
F 「ぼくらは朝をリレーするのだ」とありますが、どんなふうにリレーするのですか?
   図に描いて、説明しなさい。
  普通、リレーは、ヒトからヒトへとバトンなどを手渡してゆく。
  「朝」も、地球が回ることで、つながっている土地に、次々に「朝」が訪れてゆくから、確かにリレーのように見える。

      


  けれども、谷川俊太郎さんが言っているリレーは、隣の人に手渡して終わらない。
  ずっと遠くまで、想像力を働かせています。

                      

 
  ずっと遠くの、地球の裏側に着いた「朝」を想像することになります。



       眠る前のひととき耳をすますと

       どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる

       それはあなたの送った朝を

       誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ




     明らかに、地球のずっと遠くに住む人の朝を想像している。

     会ったこともない人が、わたしの送った「朝」を手にする瞬間を想像している。

     そこが、なんだかとっても温かい!

     また、だからこそ、地球をみんなで手をつないで包んでいるような印象を生んでいる。

 
イラスト・素材の一部は、「イラスト工房」の素材を利用しています。
http://www.illust-factory.com/
 
 
G 「交替で地球を守る」とありますが、どういうことですか?
  地球上には、朝がやってくるところと夜がやってくるところとがある。それがちょうど交代で起きたり寝たりしているように見える。
  起きて、見張りをする、というイメージ。見張りをしているみたいだ、という意味。
  同時に、地球を大事にする、というイメージを伴っている。
 
H この詩のテーマは、どの辺にあると感じますか。また、あなたが考える詩のテーマについて、まとめて書きなさい。
 
 人間は、どの国の人も、同じ地球の上に生きている。同じ地球の上で、同じ朝を順番に迎えて生きている。みんなが同じ朝を迎えながら、実はつながっている、ということを想像したい。遠くの、会ったことのない人も、同じ朝を迎え、同じ地球の上で、同じように生きている、という想像をしたい。この詩は、そういう想像力を人の心に残してくれる。
 その遠くの人、の中には、もしかすると時間的に遠い人、という意味も混ざっているのかもしれない。若い人ばかりが登場するこの詩の前半を読むと、谷川俊太郎さんが、次の世代の人たちや、もっと後のこれから生まれてくる人たちにも、同じ心をリレーして伝えたい、と願っているように思えてくる。




 
作者●谷川俊太郎 一九三一(昭和六)年― 詩人。東京都杉並区に生まれる。哲学者、谷川徹三の一人息子。高校在学中から、詩作を開始し、高校を卒業した一九五○年に、父の友人であった三好達治の紹介で、「ネロ他五編」を雑誌「文学界」に発表する。一九五二年、二十一歳のとき、第一詩集、「二十億光年の孤独」を刊行する。一九六二年「月火水木金土日の歌」でレコード大賞作詞賞受賞。一九七五年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞受賞。また、スヌーピーで有名な「Peanuts」の翻訳でも有名。
 演劇、童話、絵本、翻訳など幅広いジャンルで活躍している。また、自作の詩の朗読や、演奏家とのジョイント活動など、新しい試みにも積極的に挑戦している。代表的な詩集に、『旅』『ことばあそびうた』『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』『よしなしうた』『世間知ラズ』などがある。
 



谷川俊太郎は「鉄腕アトム」の作詞者だ!

     空をこえて ラララ 星のかなた

     行くぞ アトム ジェットのかぎり

     心やさしい ラララ 科学の子

     十万馬力だ 鉄腕アトム